泉澤 明日美&北葉月 佐雪 過去編
なんでも出来る明日美ちゃん。なんにも出来ないと思っている佐雪ちゃん。
そんな二人がどうして仲良くなったのか?
ちょっとした友情物語。
●あらすじ○
時は小学校の話。

あまりに可愛いくて男子にいじめられている佐雪を助ける明日美。
どうやら、佐雪が好きな男子が意地悪をしていたようだ。
二人はそんな些細なことから、少しずつ仲良くなって行く。

活発で男子とかけっこをして遊ぶような明日美。
明日美から見れば、佐雪はお人形さんのように可愛らしく、
守ってあげたいと思える存在になる。というか好き。

温室育ち、部屋でピアノを引いたり絵を描いたり、外で遊ぶようなことはないような佐雪。
佐雪からすれば、明日美はすごい活発な人で、運動神経もよくみんなに好かれる。
すごい頼れる存在だなと感じる、憧れの存在になる。

中学の始めに、明日美は佐雪の家に初めて遊びに行く。

そこで出会ったのが、ツンツンとした佐雪の姉。

「友達? 友達なんか読んで暇そうにしてるわね。
そんな遊んでばっかりだから頭も悪いのよ。もう少し勉強でもしたら?」

ちょっとムッとする明日美、佐雪に止められてとりあえず佐雪の部屋に向かう。

部屋は綺麗に片付いていて、エアコンも付いている。
普通の部屋を更に一回り広くしたようなその部屋は、まさに軽い富豪の家だ。

佐雪
「お姉ちゃんは私と違ってなんでもできるから……」
通信簿オール5はもちろんのこと、いろいろ習い事もしているような出来の良い姉だ。
それと比べれば、佐雪は出来が悪いといえる。
失敗失敗のドジっ子属性だった。

佐雪
「ちょっと紅茶でも持ってくるね。そのへんの漫画でも読んでて」
漫画本があるのは佐雪の部屋だけ。

明日美は一人佐雪の部屋で待つ。
漫画本を見るが綺麗な漫画ばっかりであまり明日美には合わないよう。

布団に突っ伏しては、ふかふかで良い香りのするベッド。
タンスを開ければ、綺麗に並べられたパンツ。

明日美
「ぱんつ?」
明日美
「へぇーこういうの履いてるのね……」
思わず匂いを嗅ぐ。
明日美
(なにこれ!? すごい石鹸の良い香りがする! 流石温室育ち! 私とは生き方が違うわ……!)←小ネタでの軽いフラグ

佐雪
「紅茶入れたよー」
そこに戻ってくる佐雪。
明日美
「あ」
佐雪
「わっ」
佐雪
「ちょ!? 明日美ちゃんなにやって(ry」ガッ
すてーん!
見事に転ぶ佐雪。
明日美は持ち前の運動神経で避ける。
佐雪
「うへー。またやっちゃった……」
明日美
「大丈夫!? っていうか今拭いてるそれ、パンツよ!?」
佐雪
「ああー! これ結構気に入ってるやつだったのにー!」

そんなことがあったり、二人はいろいろなことをして遊んだ。
明日美から佐雪へは、外で遊ぶ事の面白さ。
佐雪から明日美へは、中で遊ぶ遊びの事。

そんななか佐雪の家で、碁盤を発見する。
明日美
「あ、碁盤! これ知ってる。あたしのお爺ちゃんとよく対局して遊んだわー」
佐雪
「ごばん? なんで碁盤がうちにあるんだろう?」

「ちょっと佐雪。人のものに勝手に触らないでくれる」
佐雪
「あ……」

「あんた囲碁も知らないの? この世で最高の知能ゲーム。まぁ頭の悪いあんたには無縁か……」
明日美
「っちょっと! あなた、佐雪の姉かなにか知らないけど、佐雪に強く当たりすぎ!」

「なにあなた。佐雪の友人かなにか知らないけど、佐雪をかばい過ぎ。
あなたもそんな子と一緒にいるとバカが感染るわよ」
明日美
「っ!!」

ガタッ!
つい胸ぐらを掴んでしまう明日美。


「……あら、暴力? 野蛮ね。知能が低いバカ共はそうやって力で解決することが出来ない。
あんたみんたいな喧嘩っぱやい奴がいるから、世の中のチンピラだらけだし、戦争は無くならないのよ」
明日美
「後半言ってる事は正しいけど、あんたももっとソフトに言える気持ちがあれば戦争は起こらないのよ」

「そうかしらねぇ……。あなたが私より優れているというのなら、言われることすらないんじゃないの?」
明日美
(こいつ……!!)
佐雪
「や、やめて! いいの明日美ちゃん! 私がバカなのは事実だし……」
明日美
「っ……」

明日美手を離す。


「ふぅ……。服が伸びるからやめてよね。
そんなに悔しいなら、暴力でなく頭で戦ったらどうなの?」
明日美
「あたま?」

「破壊は不利益よ。知能で奪った方が全てが手に入る」
明日美
「なにがのぞみ?」

「そうね……。丁度目の前にあるそれで、決着でも付けようかしら。その囲碁でね」
佐雪
「囲碁……?」
明日美
「え? これでいいの?」

「ええ、いいわよ。頭の悪い佐雪の友人ならこれで十分。
あなたもコレに懲りたら、もう家に遊びに来ないでくれる? 目障りだから」
明日美
「そう。じゃあ私が勝ったら、佐雪の事もう悪くは言わないでくれる?」

「くすくすw いいわよなんでも、勝てる物ならw そこの賞状見た?」

チラッ


「地区全年齢男女混合の地区大会で2位の賞状……。この辺で私より知能の高い人はいない」
明日美
「ああ!」ポン!

「あら、知ってるの? 光栄じゃない」
明日美
「「遊びは中学まで」の人ね! デスノみたい」

「ええ。まぁ1位はガチ勢だったわ。プロの子じゃないかしら?
流石にあそこまで鍛えたいと思わないけど」
佐雪
「や、やめて! 明日美ちゃん、絶対勝てっこないよ! やめようよこんな試合!」
明日美
「佐雪?」
佐雪
「私……家に来てくれる友達、明日美ちゃんくらいしかいないから……明日美ちゃんまで遊べなくなったらやだよ……」グスン
明日美
「とりあえずちゃっちゃか始めましょう!」
佐雪
「ええーーーー!!Σ( ̄□ ̄;)」
佐雪
「ちょっちょっと!? さっきの話、聞いてた!?」
明日美
「大丈夫大丈夫!
もし負けたら、佐雪がうちにくればいいじゃないw」

「結構……! 始めましょう!!」

明日美vs姉


「私が黒! これはいい! 私の黒の先手はコミ出しに勝る!」

パチッ!

明日美
「そうそう、ちょっと聞きたいんだけど。その1位の子って私と同じピンク色の髪じゃなかった?」

「そうだったかしら? あんまり見てないけど」
明日美
「そして、これくらいのショートヘアーじゃなかった……?」

シュルルッ
リボンを取く。


「……?」
明日美
「そして……」

カーン!
番に白石を打つ!
その場所5の4!!

明日美
「……こんな変わった手から打たなかった?」

「え……!? ウソ? でもその対局……!?」

(お、思い出した!!
このピンクの髪! 間違いない……!
あの時の地区大会1位の子!!)
明日美
「始めましょうか。平和な知能の争いとやらを」

対局終了。


「あ、ありません……」
佐雪
「す、すごい……。すごいよ! 明日美ちゃんが、あのお姉ちゃんに勝った!!」

「ひ、卑怯よ!! あんた、私に勝てるって知っててワザと勝負に乗ってきて!!」
明日美
「さて、どうかしらねー? 「賢い鷹は爪を隠す」なんてことわざもあることだからねー」

「ぐっ……!」
明日美
「もっとも、こっちは隠してすらいないけど……」
明日美
「あなた。人の顔、あんまり見ないでしょ? 他人には全く興味がないって感じね」

「っ!?」
明日美
「あなたがもっと他人に興味を持てていれば、私が誰だか気づけたでしょう。
そして、佐雪にも優しく出来たんじゃないのかな……?」

「…………!」

「い、いいわよ! もう関わらないわ!」
佐雪
「お姉ちゃん……!」

たったったった……

明日美
「なんなの……ツンツンしすぎ……!」
佐雪
「…………」

それからというもの。
姉は佐雪に強く当たる事は少なくなった。
その分、二人は会話も減った。

そして中学のなかば頃の話。

明日美
「どうしたの佐雪?」
佐雪
「あの、困ったことがあって……」

佐雪に連れられて、山に付いていく。
山に行くと2匹の捨て猫を発見する。

佐雪
「捨て猫みたいなんだけど……」
明日美
「可愛いわねw 兄弟かな?」
佐雪
「ううん。二匹ともメスだから姉妹だと思う」
明日美
「そこ?」

飼う飼わないうんぬんの話になる。
明日美
「1匹だけなら飼えるんかもしれないけど、2匹となると流石に厳しいわね……」
佐雪
「うちは絶対無理……。でも可哀想だし、なんとかしてあげたい気持ちはあるけど……」
明日美
「じゃあ大きくなるまであたし達二人で、ここで飼うおうか!」
佐雪
「え? でも……」
明日美
「いいからいいから! 飼い主が見つかるまででもいいからさ!」

中学生二人ではこの考え方が限度だった。
なにより見た目の可愛さもあり、見捨てる事は出来なかった。

佐雪
「白と黒、名前はどうしよう?」
明日美
「別にシロとクロでいいんじゃない?」
佐雪
「明日美ちゃん適当!! 人間に肌色って名前付けるようなものだよ!?」
明日美
「じゃあ白がクロで黒がシロね」
佐雪
「ややこしいよ!? 人間に青色って名前付けるようなものだよ!?」
明日美
「肌色の逆って青なの?」

なんやかんやで凹(おう)ちゃんと凸(とつ)ちゃんになりました。

それから、街でダンボールを持ってきて、ダンボールハウスを作ってあげたりした。
佐雪
「黒い猫が活発で、よく動き回るからもう探すのが大変でw」←フラグ
佐雪
「でも道路までは、結構距離があるから大丈夫だと思う!」
明日美
「そっか……あそこまで行っちゃうと危ないわねぇ……」←フラグ

遊んだり、楽しんだり、怒られたりの日が数日続く。
明日美
「あ、猫缶。佐雪、いいの置いとくじゃない」
佐雪
「え? 私じゃないけど……」
明日美
「あれ……? 他にだれか面倒見てるのかな」

そんなある日

佐雪の用事のため。
一人で猫を見に来る明日美。

明日美
「おーい、元気してたかーい?」
猫凹(黒色)
「にゃー」
明日美
「相変わらず元気ねー。
あ、猫缶……」

「……有害動物」
明日美
「!?」

「野良猫は有害動物よ。
人の家に勝手にあがっては食料を漁る。道路に飛び出しては、乗ってる人を危ない目に合わせる。
人を病気にするような、危ない菌を持ってきたりもする」

「むやみに餌を与えたり、人に近づけるような事をしてはダメなのよ。
ましてやこんなダンボールで家を建てるだなんて……何を考えてるのかしら?」
明日美
「……はぁ、きつい事言うわね。もう、きつく言わないって約束じゃなかった?」

「ええ、約束したわ。言う通り、佐雪には言ってないわよ」
明日美
「そうですかい」

「…………」
明日美
「この猫缶、あなたが置いてくれたのね」

「っ! 違うわ! ちょっと通りかかっただけよ」
明日美
「まだ開いてから新しい。如月学園から佐雪の家までココは通らない。
こっそり佐雪の後でも付けて見つけたってところね」

「…………」
明日美
「でも嬉しいわ。あなたがこの子達の事思ってくれたみたいで」
明日美
「あなたなら、ダンボール箱破壊してこの猫皆殺しにしそうだったからね!」

「し、しないわよ!? どんだけ悪人だと思ってたのよ!!」
明日美
「でも言い方変えればそれは正しい。
ダンボールの撤去と猫を保健所に送る……。
人間が生活するためにそれは正しいことなんだろうなって、ちょっと思っちゃうけど」

「…………」

「流石にこの子達の生きる資格までは奪わないわよ……」
すっと明日美の隣に近づく姉。
明日美
「!」

なんか過去の話を始める姉。


「私は姉失格ね……」

「明日美って言ったっけ?
あんた、私に勝ったんだから、最後まで佐雪と仲良くしてやんなさいよ」

「絶対に悲しませたりするんじゃないからね……!」
明日美
「え、ええ……」

ただのツンデレ。
妹思いのいい姉だった。

そんなある日事件は起こった。
ザーザー!!
ゴロゴロゴロ……。
明日美
「ヒドい雷と雨ね……」
佐雪
「どうしよう……凸凹(おうとつ)ちゃん大丈夫かな……」
明日美
「ダンボールの家もあることだし大丈夫よ……ほら、ビニールシートで前の雨でも大丈夫だったじゃない」
佐雪
「うん……」
明日美
「晴れたら行こ……」

放課後
明日美は先生に呼ばれて、佐雪だけ先に山に向かった。
話が終わって、ちょうど下駄箱を出た辺りでの事。

佐雪
「明日美ちゃん!猫さんが! 猫さんが二匹ともいなくなったの!!」
明日美
「!?」

嫌な予感がよぎる。
急いで山に登る二人。
そこには……!
明日美
「っ!? ……うそ!」

……散らばるダンボール。
倒れてきた木で、中央がくの字に曲がっている二人で作った
ダンボールの家だった。

佐雪
「多分雷の影響で……」
明日美
「ね、猫は!? 猫は無事なの!?」

いない。

佐雪
「ごめんなさい。私もここら辺を探したんだけど、姿が見えないの……」
佐雪
「で、でも……中にはいなかった。木が倒れてきて、びっくりして逃げたんだと思う」
明日美
「と、とりあえず手分けして探しましょ!」

山の中を探す明日美。

どこにもいない……。
いくら探してもいない……。
怪我はしてないだろうか?
雨で風邪を引いてはいないだろうか?
見つからない。
もしかして、親猫が連れて行ったんじゃないだろうか?
誰かが見つけてつれてったのだろうか?
やばい、夕焼け。
暗くなってきた。
あまり暗くなってはまずいわ。

まさか……
これ以上先はまさか……
まさか道路のほうに……!?

不安を胸に山を抜け道路沿いにでる。

明日美
(いない……)
明日美
(なんだ……気のせいだったわね……。
流石にこっちまでは来ないよね。まだまだ子どもだもの……)

たったったった……

道路沿いを歩いている。
少し明るい時は多かったのだろうか?
今は車通りは少ない。

明日美
(あ……)

佐雪が突っ立ってる。

明日美
「どう? みつかったか?」
佐雪
「…………」

黙る

明日美
「どうしたのよw いたのかってきいてるのよ……?」

佐雪はゆっくりと口を開いた。

佐雪
「うん……いたよ……」
明日美
「……え?」
佐雪
「みつ……けた……」
明日美
「…………!」

道路の脇。
遠く動くそれ。

明日美はゆっくりとそれに近づく。

明日美
「そん……な?」

それは、間違いなく。
佐雪達が育ててきた猫。

車に轢かれ、隅に追いやられた状態の黒猫、凹(おう)ちゃんだった。
凸猫
「にゃー……」
そこには黒猫の凹をなめてあげたり、前足で押してみたりする白猫凸。

明日美
「あ……あ。ぐっ……」

目を背ける明日美。
見るに耐えない。

明日美
「む、無理もないわね……。まさか……こんなところまで来るとは……」

たったったった……。

そこに歩み寄る佐雪。

そして座り込む。

佐雪
「ごめんね……。本当に、ごめんね……」
佐雪
「遅かったよね……。もうちょっと早くくれば……良かったよね」
佐雪
「気づくべきだったんだよね……学校抜け出してでも……来るべきだったんだよね……」
明日美
「さゆ……」

ポロポロ……。

佐雪
「救ってあげれなくて……ごめんなさい……!!」

………………!

凸猫
「にゃー……にゃー……」

もの言いたそうに佐雪に近づいてくる凸猫。
濡れた頭を佐雪の足にこすりつける。

凸猫
「にゃー……にゃー……」

佐雪は凸猫を抱え上げ。
ギュッ
抱きしめた……。

佐雪
「ごめんね……」

なんて結末だろうか……。

たった……

こんなのひどすぎるわ。

たったったった……

何も、何も出来ずに終わるなんて……。

たたたたた……!

なにか……!!

ふわっと後ろから佐雪を明日美抱える。

過去の回想

生きてた頃の黒猫。
家族。
この山にたどり着くまで。
最後は笑顔で、お別れしたかった。

明日美
「佐雪ごめんなさい……。
もうあなたを悲しませたりしないから……」

………………。

…………。

……。

それからというもの。

佐雪
「あれから凸ちゃんの調子はど?」
明日美
「ええ、元気にやってるわよ。いつでも会いに来なさい!」

凸猫は明日美の家で飼われる事になった。
1匹なら良いと親から了承が出たらしい。
明日美
「ごめんね。初めから2匹ともうちで飼えれば、こんな悲劇は起こらなかったのに……」
佐雪
「そんな、仕方ないよ! そんなの結果論だよ。
事故の結果なんて誰もわからない事だし……」
明日美
「いいのよ! 私が。不甲斐無いばかりに……大事な相棒を失わせてしまったんだから」
明日美
「だから私が、責任を持ってこいつを一人前にしてやろうと思う!」
凸猫
「にゃーん」

と、掛け出す凸猫。
佐雪に抱えられる。

佐雪
「うん! 私もお手伝いしたい!」
明日美
(そしてこの子も。佐雪ももう悲しませたりしたくない)
明日美
「ていうか、飼い主はあたしだぞー! なんでそっちになつくのよー!!」

明日美
(ずっと……みんなで笑っていられますように)

エンディング