「神野 七六八」の過去
神野 七六八
七六八はお父さんっ子だった。
お父さんは、とっても強くて優しかった。
お父さんはずっと、七六八の事思ってくれていた。
そんな最愛の父を、小さい頃に癌で亡くし
変わりに得た最強の囲碁の力……。
七六八は今、何を思う。
こちらは設定として矛盾が起こらない様に書いています。
父ネタが希新と被ってるのがちょっと気になります。
もしかしたら、構想を練り直すかもしれません。
●あらすじ○
なんということだろうか。
母親のレントゲンに映る小さな異物。
手術でそれを取るのは、逆に危険だと診断される。
コレから生まれてくる赤子。
幸いにもその異物は、丁度胸の空間で収まり
赤子を傷つける恐れはないらしい。

そうして生まれてきた赤子が持っていたソレは
なんと碁石!
白い碁石!!
そう、彼女は生まれる前から、碁石を握りしめて生まれてきたのである!!
っていうか、この夫婦がそういう碁石を入れるプレ(ry

親はそれを見て、囲碁の全手数と言われる10の768乗から「七六八」と名付ける。

それから七六八少し大きくなり、しばらくして父の囲碁姿を目撃。遊び方を学ぶ。

囲碁を学んだ七六八はどっぷりとその世界にハマる。

家に居る時間、学校に行く時間、勉強する時間、食事する時間、トイレに入っている、お風呂に入る時間全ての時間を費やし、
みんなが楽しく遊んでいるとき、ゲームをしている時、寝ている時間も全て
飽きることなく囲碁に費やす。

そんな中、父は誕生日に髪飾りのピンをプレゼントする。
父「ほら、こうすれば前髪で碁盤が見えなくなることはないだろうw」
なるほど言わんばかりにえらく気に入る七六八。

「囲碁ばっかり打ってる子がいる」というを聞きつけた2つ上の「古谷つくし」が対局を挑む。
結果は七六八の中押し勝ち。
それからたまに会話する友達になる。

七六八を囲碁を飽きさせなかった理由は父の存在。
父の丁寧な教え方。
ひと部屋丸々使った大量の囲碁の書庫。
年齢不問の定期戦への出場。
ネットでの囲碁情報。
自らの成長。
恐ろしいほどの才能。
そして、最強の父から褒められる事。
七六八が囲碁を覚えるのに、完璧なまでに
全ての環境が味方をしていた!

しかし、七六八には「2つの不幸」がやってくる。

一つは川へ転落する事故である。
長時間生死をさまようという大きな事故。
脳への影響は避けられないかも知れないと言われた。

七六八が起きたとき、恐れていた事が起きた。
記憶喪失。
なんと囲碁以外の事を全て忘れてしまうという事態になった。

囲碁側から見れば、なんというデフラグ。
プロの棋譜を丸暗記していた七六八には、
プロ並、いやそれ以上の読みと力を発揮することになる。

出来上がる大量の空き容量。
家族との記憶とともに、それを埋める様に膨大な囲碁の情報を吸収していく。

看護婦「あの子……囲碁の動画を見ながら、何か言ってるんですよ。
なにやらブツブツと数字みたいなものを……
たまに「カタイ」とか「アマイ」とか「ムリ」とか……一体なんのことなのかしら?」

父「私は即座にそれを碁譜番号だと読み取りました。7の8、6の9っていう具合にね。
手を打った後すぐに娘は数字を言いました。9割方、その手は当たってるものでした。
一瞬のうちにプロの次の一手を読み当てたのです。
ただそれだけでは、少し上手い人なら結構当たるものなのです。
私は唯一喋るその言葉のメモを続けました」

父「次に娘が「アマイ」と言った言葉の前の番号を振り返りました。
その前の手では、プロ碁士と娘とで別の手を記していました。
ええ。最初は「娘が間違えていた」と思っていたのです。
しかし、調べてみると結果は驚くべき事が起こりました」

父「同じ勉強会でのプロ碁士とも相談しながら、娘の手を検討すると、
どうやら娘の手の方が、毎度実践より良い流れになるようなのです。
ほとんどは微量な差ですが、あっと歓声が湧くようなとんでもない手もありました。
「カタイ」ところはもっとゆるく、「アマイ」ところはもっと厳しく、「ムリ」なところは少し抑える。
そのミクロの差すらも、娘は瞬時に答えていたのです。
そう、娘は「プロの手合わせ遊び」をしていたのではなく、
完全に「プロの手を添削していた」のです」

父「検討中「なんだこれぇ……」と投げ出す新人もいました。
かなり後半に効いてくるような、とても読みの深い手であることは確かでした。
娘は我々の所までもう来ているんだなと、確信しました。
しかしこの考えは、その後大きく覆される事になったのです」

医者「いやぁ、驚くべき回復力ですね……。
一応痴呆症にも効く薬を出していたのですが、ココまで回復するなんて今までの記録にありませんよ。
本来脳細胞は一度失ったら戻らないとされているのですが、
この子の場合それが大量に復活と増殖を続けているのです。若さからですかね……。
体には特に害はないようです。
いえ、少し他の子より体側の発達が遅いようですが、気にする程でもないでしょう」

七六八はめでたく退院する。
その後、父と久しぶりに対局をする事となる。

父「はぁ……。お、驚いた……」
七六八、2子局で父に勝つ。
この時七六八、12歳。
七六八「次は、互先でお願いします」
父「そうか……。今度予定を空けよう」

その後父の推薦で院生に入ることになる。
囲碁しかやらない七六八は目を光らせて喜んだ。
父も新しい囲碁仲間が出来ればと思いった。
父はいろいろと忙しい。

結果は逆効果。
もちろん七六八は完全無敗。
しかし社交性がなかった。
「よろしくお願いします」と「ありがとうございました」しか言わなかった。

七六八、院生では一度も負けない。
院生「あいつとは戦いたくねぇ……」
ライバル視して、なんども挑む子も居た。
だが、挑んでいた子はある事に気づいて、そのうち打つ事をやめてしまった。
「争いは同じレベルの者としか起きない」
七六八は次元が違った。

七六八のプロ試験が間近に迫ったある日。
父は体の不調を訴える。
「最近お腹の調子が悪い……」

トイレに駆け込んだ際。
べっとりと手につく血。
すぐさま病院へ駆け込んだ。

大腸癌からの大きく転移。
仕事柄ストレスも多かった事だろう。
医者「薄いとはいえ、結構範囲の大きいものです。
これら全てを取るのはそれだけで命に関わり不可能です。残せばまたそこから……。
我々にできることは、痛みを和らげることしか……」
発見の遅れた末期状態。
余命3ヶ月と告げられる。

食欲の低下。食った物を吐く。体重の激減。
唯一大事だった、思考力さえ脅かされる。
このままではまずい……。

父はそれを七六八には教えず、
明日互先で対局をしようかと約束。

丁度二人が休みだったその日。
父は長考に長考を重ね、朝から夜まで続くとても長い対局になった。
結果は、七六八の中押し勝ちとなった。

突然泣き出す父。
父「あ、すまない……つい、嬉しくてな……」

父「あとは七六八……お前に任せる」
七六八が見た、父の初めての涙だった。

父は数日後、入院することになる。
七六八も何事だと、毎日病院に通う。
七六八「すぐに、元気になる……」

父の状態は最悪だった。
体中が痛い。筋肉が固く、動かしにく。歩くことすらできない。
父は最後に、七六八のプロ試験合格の報告を聞きたいと、ずっと耐えた。
しかし、体はそれを許さなかった。

プロ試験終盤。残り4戦。
先生「七六八ちゃんは、次を勝てばプロ試験は合格確定だよ」
その一番起こってはならないタイミングで2つめ不幸は起きた。

父が……。

母親とともに七六八は病院に駆けつけた。
モルヒネで父はもうほとんどしゃべることもななならないかった。

七六八「お父さんは……元気になるんじゃなかったんですか?」
母「…………」
入院しても七六八の前では元気に振舞っていた父。
七六八はゆっくりと弱っていく父を見ながらも、いつか元気になると信じていた。

父「妻…………七六八……」
母「……もう、いいのよ……あなた」

父「七六八……あたま…………」
七六八「あたま?」
頭を探る七六八。

父「ぴん…………。ありがとう…………」
七六八「……!!」

【スウウーーーーッ!!】
フラッシュバック。

七六八は忘れていた。
記憶を失ってからもずっと付けていたこのピンの正体を。
父から貰ったこのプレゼントを。
七六八はこの瞬間、忘れていた父との記憶を全て思い出た。

七六八「いや……いやだ。お父さん…………お父さん」
父「…………」
七六八「また、囲碁打とうよ……。ずっと……これからも一緒に、囲碁のお話しょうよ…………」

わからないことでも丁寧に教えてくれた父。
書庫で沢山ある囲碁の本。高いところを取ってくれた父。
地方の大会で、七六八の囲碁を見ている時の父。
優勝したとき祝ってくれた父。
パソコンで囲碁のやり方を教えてくれた父。
ネットでの囲碁情報を一緒に見た父。
七六八の成長をずっと見ていてくれた父。
そして、七六八を褒めてくれた父。

その父はもう、目の前で動かなくなっていた。

七六八「どうして……! どうして……、私は……!」
こんな大事な事を忘れていたのだろう。
父『あとは七六八……お前に任せる』
七六八「お父さん……!! まだ終わってないよ!! お父……さん!!」
どうしてあの時、勝ってしまったのだろう。
どうしてあの時、気づいてあげれなかったのだろう。
どうしてあの時、そんな最善手を読めなかったのだろう。
七六八「おとう……さん…………」

父は、目を覚ますことはなかった。
余命宣告から5ヶ月。
2ヶ月の命を伸ばし、この世を去った。

七六八はとっても無愛想だ。
笑うこともしないような子だった。
ただこの時だけは、普通の女の子のように、
父の死に、泣いた。

それから七六八は、完全に家に引きこもってしまう。

この時期にプロ試験を受けていた「古谷つくし」が神野十段が
亡くなったというニュースを聞き、七六八が凄く落ち込んでいるという事を耳にする。

様子を見に出向くつくしだが、母から「そっとしておいて」と言われ無理追いはしない。
それから合わなくなる。

プロ試験は合格間際。
誰しもが合格を疑わなかった。
4戦の不戦敗。
プロ試験には落ちた。

今までにない長い期間、囲碁を打たなかった。

七六八はわからなくなっていた。
何故自分が囲碁をしていたのか?
何のために頑張っていたのか?
「父がいたからやってこれた」
それで結論付けてしまうのも無理はない。

七六八に残ったのは「最強の囲碁の力」だった。
七六八「もし、七六八が……最弱になることで、願いが叶うなら
お父さんを、生き返らせてくれますか……?」
母は泣いた。

それから、3年の月日が流れる。
七六八も元気を取り戻しつつある。
その3年間は、カウンセリングで「人との付き合い方」を学んだという。

そして、如月学園の高等部にギリギリで合格する七六八。
母「七六八……高校は行かなくても……そのね」
小学校、中学校と如月学園を通っていた七六八だが、義務教育はそこまで。
七六八「はい。確かに、プロ試験を受ければ、七六八はきっとプロになれるとおもいます。
でももう少し、他のいろんなことを学んで見たいのです」

そんな七六八は今何を思うのだろう。
「七六八は……今までずっと、囲碁のことしか知りませんでした」
「七六八は、この世界をもっと知りたい。囲碁以外の楽しい事を知りたい。
いろんなことを知りたいです」

七六八「沢山お友達を作って、沢山みんなと遊んで……
沢山笑いたい」

「七六八は普通の学生生活を送ってみたいです!」

七六八には、全てのことが新鮮で楽しいらしい。
小さい頃の全ての時間を囲碁に費やしてきた。
みんなが遊んでいるとき、寝ているとき、
食事をしているとき、テレビを見ているとき。
七六八はずっと囲碁に費やしてきた。
だから七六八は走り回る。
強さと引換に失った思い出を、取り戻すために。

END