麗過去編に戻る
02
「火曜日昼休み1」
【背景:中学校】

次の日。
お昼休みに入る。

俊介
(昼休みか。給食も美味かったし、満腹だ。次の授業が始まるまで詰碁の本でも読んでるか)

パサッ
本を開く。

俊介
(昨日……俺はあれから、あいつがまだどこかに居るかもと思い、周囲に気を使いながら帰ってみた)
俊介
(探すってほどでもない。周囲を見ながら帰るってだけの事。ただ、ちょっと気になっただけだ)
俊介
(名前ぐらい知ってれば、まだ残ってる生徒にでも聞いて見つけやすかっただろうな。
まぁ、それにそこまでするほどでもないが……)
俊介
(とはいえ制服はこの中学のもの、同じ学校の生徒だ。まあ、運が良ければまた会える。その程度で良い)
俊介
(なにより、昨日負けたことといい、あいつが泣いたことといい。今は気になって仕方がないのも事実だが……)
楓河
「おい、俊! 今日、日直だろ?」
俊介
「そうだったな。どうした?」
楓河
「先生がなんか取りにこいって。職員室」

【se:パタン……】
本を閉じる

俊介
「そのことを記憶の門に封印していたところだ。結界を解いてくれてありがとう」
楓河
「忘れてたんだな」

【背景:職員室】

1組先生
「その三角定規、教室持って行ってね」
俊介
「わかりました」

【se:たたたたた……】
麗が職員室から飛び出す。

俊介
(ん?)
俊介
(あ! 今のは昨日の……!)
2組先生
「……麗ちゃーん! 麗ちゃーん!」
2組先生
「んもう。まだ、話の途中なのに、何あんなに慌てて……!」
俊介
「2組先生、どうかしましたか?」
2組先生
「あ、俊君。なに? 麗ちゃんと知り合い?」
俊介
「え? あー少し……。」
俊介
(と言っても昨日ちょっと会ったぐらいだが……)
2組先生
「へー……」
2組先生
「まぁ別に後からでもいいんだけど。成績の話してる最中に飛び出してっちゃってさ」
俊介
「成績? 大事な話ですか」
2組先生
「まぁ詳しくは言えないけどね。あんまり成績良い子じゃないじゃん? 麗ちゃん……」
俊介
「え? そう……ですね」
俊介
(成績がよろしくない、追試組といったところだろうか?)
俊介
「あ!」
俊介
「なら俺が連れてきますよ。丁度麗さんに用があったので」
2組先生
「お! そりゃいい」
2組先生
「流石学年1位は言うことが違うなーw はっはっはww」
俊介
「……すぐ、戻ります」

【se:たったった……】
【背景:廊下】

俊介
(とはいえ、出てすぐ見失ったからな……。どこ行った? トイレとかなら見つけようがないぞ)
俊介
(次の授業もあるだろう、早めに戻れればいいが……)

【se:たったった……】
廊下を歩く俊介。

俊介
(昨日も考えたが、やはり中盤だな。強弱に関係なくホイホイと答えすぎた。
先手のタイミングは少しはあったはず……)

キャッキャ(*´∀`) (´∀`*)ウフフ
ふときゃっきゃと賑わってる女子たちが目に止まる。

俊介
「!」
俊介
(……居た)

女子たちの囲う奥、壁際に居た。
しかし、麗は笑っていない。

俊介
(運が良い! 意外と早く見つけられるとは! 早いうちに再戦の話を付けとこう!)
俊介
(っていうか、先生が呼んでたんだよな。まずそっちの事が先だろうが……)

【se:ピタッ】

俊介
「……?」

足を止める。

俊介
(気のせいだろうか……? なんだかあいつだけ楽しそうにしていない。
かと言って、ただの友達だったのに
変に誤解をして、麗を引き離すなんてことはしてはならないだろう。
周りから因縁を付けられるのも困る。気分が悪いだけかもしれない。
ありとあらゆる可能性を考え、自然に輪に入りたいところだ)
俊介
(それに、可能であれば対局の事は麗がひとりで居る時の方が話しやすい。少し様子を伺う事にするか……)

俊介、遠目に麗達の様子を伺う。

俊介
(会話の内容は良く聞き取れないな……。あ、一人があいつの体を叩いた。じゃれ合いか?)
俊介
(む? もう一人が髪をくしゃくしゃしたぞ! いや、女子なら良くあるのかもしれん)
俊介
(頭叩くのはダメだろ! 大事な囲碁の記憶が詰まってんだ!! 記憶が飛んだらどうする!?)
俊介
「おい、お前ら……」
q2
「あん?」

「あっ……」
q2
「は? なにあんた?」
俊介
「今お前……そいつの頭叩いただろ? やめてくれないか?」
俊介
(囲碁が弱くなったらどうするんだ)

q達
「……」
q2
「ぶっww うわw なにこいつww マジきもいんだけどwwwww」
q3
「もしかして正義の見方気取りで来ちゃったわけ? キモーい!」
q2
「っていうか、なんだよそのでかい三角定規www 武器かよwww」
q3
「もしかして、それでうちら倒そうとかwww」

「…………」
俊介
(「正義の見方」……?
まるで自分らが悪いことしているような言い方だが……
確かに俺の入り方やこの定規……そう思われても仕方がない)
俊介
「そんなたいそうな者ではない。ただの日直当番の一人だ」
q3
「だから?」
俊介
「俺はそいつに用があると、頼まれて来たんだ」

「え?」
俊介
「職員室で先生が呼んでいたので連れてこいと言われてな」

「あ、先生が……」
俊介
「悪いがちょっと連れていくぞ……」

麗の手を引く。

q達
「!!」
q4
「ちょっと待てよお前!」

q4が麗のもう片手を引く。
q4は丸々と太った体格のいい女だ。

俊介
「なんだ? 急用だと先生に言われてるんだ」
q2
「おい! 正義の味方が姫様救出ってか? 嘘付くのも大概にしろよ!」
q3
「どうせ呼ばれてないんでしょー。あったま悪ー」
俊介
「いや……事実なんだが……」
q3
「はっ……別に行かなくったってさ。怒られるのうちらじゃないし、関係ーないじゃん?」
q2
「キャハハwww そうだわww マジいいわそれ! 麗も行たくないよねー?」

「えっと……その……」

麗、俊介の掴んだ手を見て、俊介の方を見る。

俊介
(まずいな……この場は連れていかないと、先生を待たせてしまう。
休み時間もあと少し、なにより対局の約束だけでも済ませたい)
俊介
(それに麗はここに居たくないという表情をしている!
わかっている。あの先生あとが怖いからな!
そんなことより、対局の話がしたい!)
俊介
(……ココは仕方がない!)

【SE:くるっ……!】

俊介
「いい加減にしろ。先生から大事な話だと言われてるんだ! 俺まで怒られるだろ!」

q4の掴んでる腕まで回り。
【SE:ガッ!】

俊介
「連れていく!」

【SE:グイッ!】
q4女の掴んでる手を合気道で取る。

q4
「!?」
俊介
(母親直伝の技だ。まさかこんなところで役に立つとはな)
q4
「いてて! さわんじゃねーよ!!」
俊介
「走れ!」
俊介
(遅くなっては先生に悪い!)
q4
「おい! 逃げんな!!」
q2
「そんなにそいつが大事かよ!」
俊介
「……!!」
俊介
(大事!? バカか!!)
俊介
「当たり前だ! お前らの何十倍もこいつ(の知識)が大事だ!!」

【se:ザァ……】

q達
「……!!」

「……!?」
俊介
「……(キリッ」

(うっ……まずいな。大声出してしまった)

(ココにきて「大事」という単語から「とても強い碁打ち」が頭を過ってしまったせいだ。
何も声を荒らげる程でもなかったが……。
やべぇ……この場から一刻も早く逃げ出したい気分になった)
俊介
「とりあえず、急ごう! 先生を待たせている!」


「あっ……////」
俊介
(後ろから「何あいつきもーい」とか聞こえていたが、そんなもの無視でいい。確かに我ながらきもい)
俊介
(俺は麗の友人達から、麗を連れ出す事に成功した。
後で騒がした事を謝る必要がありそうだな)

【背景:暗転】
DQN側視点へ。

q4
「つーかマジ悪ぃ。あの童貞やろう。関節掴んで来るから離すしかなかったわ」
希新
「ふふ……。いいんじゃなーい」
希新
「別に今じゃなくても、後からたっぷりお返ししてあげれば……ねー?」