麗過去編に戻る
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「水曜日夕方」
俊介
[俺は走った! そういえば自転車があった! 自転車に乗り、全力疾走だ!]

俊介、自転車に乗る。

俊介
[下辺公園はここからは結構近い! 自転車で飛ばせばそんなに掛からない!]
俊介
[希新……! そうだあの縦ロール!
昼に弁当をぶちまけたあいつ! あいつが希新だったんだ!]
俊介
[俺の思い過ごしでないことを祈る! 早く行かないと……!!]

【背景:下辺公園】
【se:キィィイ!!】
自転車を止める。

俊介
「はあ……はあ……」

公園へ入る。
【se:たったったった……】

俊介
(どこだ? どこにいるんだ……?)

【背景:ブランコ】
【背景:滑り台】
【背景:木の影】
【背景:砂場】
【背景:長椅子】
【背景:自販機】

…………。

俊介
(……居ない)
俊介
(姿が見えない)
俊介
(どこにも……いない?)

夕焼けが照らす、無人の公園がそこにあった。

俊介
(……なんだこれ。あいつ、帰ったのか? やっぱり俺の思い過ごしだったのか?
全部勘違いだったのか?)

長椅子に座る。

俊介
(はぁ……。毎度なにやってんだ俺は……。ああ、俺がバカだったよ……。
楓河の言う通り、関わらなければ良かったよ)
俊介
(ああ……そうだ)
俊介
(まさか麗が……いじめグループの一員だったとは……!!)
俊介
(いやいや! 落ち着け! まだそうと決まったわけでは無い。
本人に確かめるまでは、確定付けるのはまだ早い! それを聞きに来た!)
俊介
(ほら、友達ってだけで「部外者だよーん」なんて事はあるだろう?
だが、希新のマッチョな兄貴に掘られるのだけはゴメンだぜ……)
俊介
(てか……。会って少ししかたってないだろ。あいつと俺……)
俊介
(共通点ってなんだ? 囲碁だけじゃねーか)
俊介
(それ以外知ってることは? 弁当を作れるぐらいか)
俊介
(なんで追っている? 俺より囲碁が強いからか?)
俊介
(ネット上にはいっぱい居るだろ? そうだろうな……)
俊介
(じゃあもう関わりを持たなくても平気だな? 平気だよ……)
俊介
(……もう、終わりにしようか? ……そうしよう)

【se:カタッ】
俊介、立ち上がる。
【背景:公園の入口】
自転車のある方へ向かう。
【se:タッタッタッタ……】

俊介
(……おわりか)
俊介
(はは、そんなこと出来るわけないだろ……。もう関わってしまったんだ。
終わらせられない……)

【se:タッタッタッタ……】

俊介
(いや、なんだろう。関わった関わらない以前に……終われないんだ)

【se:タッタッタッタ……】

俊介
(いつの間にか、変わってしまってたんだ。俺の気持ちが……)

【se:たったったっ!】

俊介
「ああ……そうか。俺、あいつのことをー……」

【se:たたたたたっ!!】


「ごめん……。」

【se:スザッ……】
風景全体。

俊介
「……」
俊介
「トイレ、長いぞ……」

【se:ザァァ……!】
振り向くと、そこに……。


「へへ……ごめんね。出にくくて……。」

麗が、立っていた。

俊介
「ああ、麗……。俺、麗の事……」

【se:ブワッ……!】

俊介
(ライバルじゃなく、めっちゃ良い師匠になるんじゃないかって思ってる……!!)

【se:だきっ……!】

俊介
「……!?」

麗、俊介に抱きつく。

俊介
「なっ……!?」

「ごめん……。私、ずっと勘違いしてたと思う……」

「俊介君が希新ちゃんとキスしてて……希新ちゃんに恋したから好きになったのかなって思って……」

「私……俊介君が取られたら、どうしていいか分からなくて……」
俊介
(なんかよくわからんこと言ってる!?)
俊介
「違う、違うんだ麗……。あれは(ry」

「ううん! 何も言わなくてもイイ……もう、分かってる」
俊介
(流石、理解力が良い!)

「ただ……もう少しだけ、このままでいさせて……」
俊介
「……スマン。悪かった(弁当のこと) これだけは言わせてくれ」

「いいよ……俊介君(私のために)頑張ってくれたもん」
俊介
「でも、お前……頑張ったのにな(弁当作るの)結局、救えなかった(弁当を)」

「ううん……十分(私は)救われたよ……」
俊介
「えっ?」
俊介
(いや、結局食えなかったけど?)
俊介
(とにかく安心した。また、会うことが出来た……。
ハグしてきた理由? そんなのなんでもいい)
俊介
(きっと、ハグが挨拶のお国柄の人が知り合いなんだろう。
俺もハグラーだ! ハグの挨拶は最高だぜ!)

ぎゅっとハグを返す俊介。


「!」
俊介
(ちゃんと挨拶し返さないと失礼だしな)

「や……やめてって……恥ずかしっ……っ」

【se:ぎゅっ】
麗が、俊介の服を掴む。

俊介
「……言ってることと行動がだな……」

「だ……からっ……やめてっ……」

「うっ……だって……っ!」

「そっんな…っこと……さ…れったら…
ぁっ…う…ぐぅ…っ…泣…っきたぐ…っ…うっ…な…るぅっ……!」
俊介
「……!?」

「う…っうぅぅっ……うぅ………っ……!」

俊介
[麗は泣いた……。よく泣く子だ……]

俊介
(……)
俊介
[そんなに強く締め付けただろうか……?
そんなにつらい事でもあったのだろうか……?]
俊介
[小さくて、今にも消えてしまいそうなその体……。
挨拶か……まぁ、そんな勘違いも、悪くはない]
俊介
[俺は麗を、強く抱きしめた]
俊介
[今は6時半頃だろうか……。夏の光はまだ明るく暖かい]
俊介
[夕焼けが、茜色に染まり全てを包み込むような、そんな暖かさは
俺たちを、包み込んでいる様に感じた…………]

………………。
…………。
……。

【背景:暗転】

場所が変わって。
【背景:とある廃倉庫】

q2
「うーす。ジュース買ってきた」
q3
「おお!マジサンキュー!」
q2
「なぁ、きいた? 希新さん。
あの童貞野郎、弁当で希新さんを滑らさた事の仕返ししてやろうと思ったら、もう帰ってたってよー」
q3
「うわ、マジかよ」
希新
「うん、知ってたー」
q2
「マジふざけんなよ! 普通なら逮捕じゃねーの!?」
q3
「ていうかあいつ結構イケメンじゃーん? 私タイプかもー」
q2
「おめーは顔が良ければ誰でも寝るもんなw」
q3
「はぁ? 誰でもじゃねーし!」
希新
「やめなさいよ!! そういう話は!!」
q3
「わっ! なに? いきなりムキになって……!」
p2
「あ! 希新さんもしやあの時のキスであいつにときめいちゃったとか?ww」
希新
「ば、馬ー鹿なこーと言ーわないでよー!!」
希新
「そーんな……あーるわけなーいでしょー!」
q2
(うわっ……。こりゃマジだ)
q3
(乙女だなぁ……)
q2
「これから、どうするんです?」

【se:パチン】
携帯を閉じる。

希新
「もー手は打ってある。ただ……もう少しギャラリーがいた方が楽しそー……」
希新
「そろそろ、男手が必要になるころあいかなー」
q3
「うわw ちょっとまじw」
希新
「ええ……。そうねー」

【se:ギィッ】
くるりと椅子をまわし。

希新
「そろそろ麗達に、人生の投了をしてもらわなきゃ……ねー」