麗過去編に戻る
15
「木曜日希新回想1」
決戦!
俊介vs希新

情報:
俊介:属性:鋼
希新:属性:雷・竜巻

第1手で、碁盤と机を破壊。
希新が雷で周りのモノを動かし、俊介が鋼の刃でそれを防ぐイメージ。


「私にも盤面見せて……!」
DQN
「おい、動くな!」
希新
「良いわよ。見に来てもー」

希新の攻撃を華麗に交わす俊介。
ここだ! と、反撃のタイミングを見つける。
結果、序盤優位に運ぶ俊介。

俊介
(相手は院生。どんな状況でもあなどってはならない。
だが、序盤の流れは優位! この差を守り切れば、勝てない試合じゃない!)

しかし、希新の姿を見失う。
俊介
「!?」
【ぶわぁっ……!】
と、突然横から表れ……

希新
「その手は読み間違い……!」

1手の甘い手で俊介不利に。


(つ……強い、希新ちゃん強くなってる! あれから何もしなかった訳じゃないんだ)

(院生辞めてからの数ヶ月……。まだ囲碁が好きで、ずっと打っていたんだ……)
希新
「……」

【se:パチッ】


(んー、でもまだ私にはかなわないかなー。あ、今の手はちょっと甘い)

(俊介君が上手くその甘さをとがめてくれれば……!)
俊介
「…………;」
希新
(さあ! 地獄が見えてきたでしょう? いつまで耐えられるかしら?)
希新
(そうよ! 私は強い! こんな凡人、私の相手じゃない……!)
希新
(私は……強い!!)

………………。
…………。
……。

【背景:暗転】

【背景:碁会所】
回想

希新が小学生の頃

お爺さん1
「いやぁ、希新ちゃんは強いねー」
お爺さん2
「わしも歯が立たなくてのう。希新ちゃんならきっとプロになれるよ」
希新
「ほんとー?」
お爺さん3
「そういえば、お父さんがあのプロの高原6段だったねぇ。良い血を貰ったものだ」
希新
「へへへー……」
希新
[私は小さい頃から父に囲碁を学び、碁会所ではほとんど負けなしというほどだった]

【背景:高原家茶の間】


「希新はずいぶんと強くなったなー。これくらいになれば、院生で勉強するのもいいかもしれんな」
希新
「院生?」

「希新と同じくらいの子と一緒に囲碁の勉強をするところだよ。きっと良い学び場になる」

【背景:暗転】

希新、小学6年の冬に院生に合格。
少しして父親から自分用の足つきの碁盤をプレゼントしてもらう。

【背景:高原家庭】
希新
「お父さんから、院生入学祝いと小学生の卒業祝いにこんな良い碁盤買ってもらっちゃったw」
希新
「そうだ! 記念撮影しよう。
携帯電話も新しいのになったし、写真撮るはず」
希新
「せっかくだから、中学校の制服着て、見栄えのいい風景で撮りたいなぁ……」
来年からは中学生と張り切る希新。
制服を着る。

お世話をしている池のコイが映る様に、手を掲げ上からカメラを向けて記念撮影をする。
【se:カシャッ】

碁盤と一緒に携帯に記念撮影をする希新。
希新
(あ、顔半分しか写ってなかった……。上から撮りすぎで手がぶれたかなー)

「希新ーご飯よー!」
希新
「あ、はーい!」
希新
(また今度取り直そう……)

【背景:暗転】

希新
[しかし院生は甘くはなかった。どの生徒も強く、なかなか上位に上がれない」
希新
[私はやっとの思いで、上位へと上がっていく]

【背景:棋院対局室】

希新
「やった!19位に上がれた!」

【背景:高原家茶の間】

希新
[順位が上がればすぐに父にそのことを話した]
希新
「お父さん! 私19位に上がれたよ!」

「……」
希新
[しかし、父はそれを褒めてはくれなくなった]

「まだ、2組の19位じゃないか。喜ぶにはまだ早い」
希新
「え……」

(希新には厳しかろうが、コレからもっと強者とも戦って行かねばならんのだ。
こんなもので甘やかしていてはダメだ。実際これからの戦いも甘くない。
負けられない対局など、いくらでも出てくるのだ)

(なぁに……1組に上がった頃にお祝いにご馳走してやろう。それくらいなら問題ないだろう)
希新
(おとう……さん)

【背景:教室】

希新
[それから麗と出会い友達になった]
希新
「私、院生なの!」
希新
[一般人と甘く見るも、麗は1組の上位に入ると思える程実力があった。
でも麗からなにか学べるならそれで良い……! 絶対強くなって、またお父さんに褒めてもらうんだ……!]

【背景:暗転】

しかし、希新院生では上手く行かず、あろうことか順位を落としてしまう。

【背景:高原家茶の間】


「何をやってるんだ! こんなところでつまずいていてどうする!」

「中盤でのこのカケは無理筋だろう!? ちゃんと読めばこういうことには(ry」
希新
「…………」

父もつい怒鳴ってしまう。

【背景:教室】

希新、学校で麗になんども負ける。
自分の弱さ、悔しさで泣いてしまう。

希新
(どうして……どうして私はこんなに弱いんだろう……)

【背景:暗転】

希新、院生の方も上手く行かず……。
希新
[その間父は、7段へと昇段する]
希新
「……!」

父の昇段は逆に希新にプレッシャーを掛けた。
嬉しいというよりは父がより遠くに行った様でショックだった。

希新
(どうしてこうも自分はダメなんだ! どうしてこうも自分はダメなんだ!!
……どうしてこうも自分はダメなんだ!!!)

希新は自分を追い詰め出す。

【背景:教室】

イライラしたのを、学校で麗へとぶつけてしまう。

希新
「家のお父さんの方が強いのに!!」
【パシィーン!】
希新
「あっ……」

「ぐっ……」
ざわざわ……
希新
(ど、どうしよう!? みんな見てる……。謝らなきゃ……)
希新
「う……麗が悪いんだからね……」
希新
(どうしようもない。どうしようもない。謝らなきゃならないのに。
どうしようもない……謝れない。
私は……どうしようもない……)

【背景:暗転】

希新
[そして私は院生で、事件を起こしてしまう]

【背景:棋院対局室】

希新
(今週までで、6敗……後がない。今度負ければ順位が下がるのは確実……)
希新
(今日の相手は……あ、この前新しく入って来た子だ。私より年齢が低い……。
大丈夫、勝てない相手じゃないはず)

………………。
…………。
……。

【背景:暗転】

【背景:棋院対局室】

希新
(中央が死んだ……)
希新
(なんで……また負ける。このまま打ってても形勢は動かない……負ける)
希新
(なんで、どうして……どうしてこうなのよ……どうして……)
相手
「フゥ……おねぇちゃん弱いね……」
希新
「っ!!」
希新、ついにぶち切れて盤を引っくり返す。
希新
「ふ、ふざけるなー!! こんな対局認めない! こんか結果認めない!!」

【se:ガッシャーン!】
碁石が散らばる。

相手
「!?」

ざわ……ざわ……

希新
「こんな……こんな……」

【se:ジャリジャリ……】
盤上の碁石を握りしめ、悔しがる希新。

相手
「う……うぇ……」
相手
「うええぇぇ……ん! うわぁあああぁぁぁ!!」
希新
「!?」
希新
[私は……相手の子を泣かしてしまった]
先生
「どうしたんだね!? 大丈夫かい? 何があった?」

先生が近寄る。

相手
「ごのおねぇじゃんがあああああぁぁぁああ!!」

ざわ……ざわ……

希新
(な……なに!? なによ、泣きたいのはこっちよ! 私はなにも……)
先生
「二人とも、後で応接室にきなさい……」

【se:パンパン】
と静まるよう手を叩く先生。

先生
「皆さん。こちらの事は心配しないで、そのまま対局を続けて下さい」

ざわ……ざわ……。

………………。
…………。
……。

【背景:暗転】

希新
[このあと相手母親や講師の先生にこっぴどく叱られた]
相手母
「院生ってこんな暴力的な子ばかりなんですか!?」
先生
「いえ、そういうわけではございませんでして……」
希新
[それから、院生のみんなからは白い目で見られる……]
院生
「あいつ対局で負けたからって……」

ざわ……ざわ……

【背景:高原家茶の間】

希新
[当然、父にも叱られる]

「勝てなかったから問題を起こしていいのか!?
そんなんで強くなるなら、父さんだって怒鳴りつけたりはしないぞ!!」

「はぁ…………お前がこんなダメなやつだとは思わなかった……」
希新
「ぇ…………っ」

「え? ああ、いやすまん。今のは言い過ぎたな……」
希新
「…………」
希新
[事実だと思った……。何も言い返せなかった……]
希新
[なにより。父にそう思われた事がショックだったのかもしれない]
希新
[次の日、私は高熱で倒れ、寝込む事になった]

「もう少し寝てないとダメね……」
希新
「うん……」
希新
[少し学校も休まないとダメと言われ、数日休む事になる]
希新
[何もしない時間、なにもない空間……今までの事、自分の弱さ。情けなさ……]
希新
[自分は囲碁がむいてないのだと、自分は頭が悪いんだと、理解した気になっていたんだと、考えの甘さに絶望する]
希新
[くやしい……くやしい……。どうしようも出来ない。
私は、布団の中で泣くしかなかった]

【背景:暗転】

【背景:高原家茶の間】
長めに休む事、1週間。

希新
「お父さん……」

「どうした……?」
希新
(ああ……このタイミングで熱を出したのも、なにかの縁なのかもしれない……)
希新
「私……、
院生……やめるね」

【背景:暗転】

月曜日。
希新学校へ復帰。

【背景:教室】

女子生徒1
「わーわーおかえりー」
女子生徒2
「風邪大丈夫だった?」
希新
「平気平気……きにしないで」

【se:たったったった……】


「良かった……。心配してたー……」

【se:すっ】


「よ……?」

麗の横を通る。


「…………!」

「ど、どうしたの? 希新ちゃん……」
希新
「悪いけど、話しかけないで……」

「……っ!」
希新
[ええ、そう……私は囲碁をやめた]
希新
[やめてしまえば、もう麗にもようはない……思えば前回の対局でのこと、麗とは喧嘩中だった]
希新
[どうせやめるなら、仲直りする必要もない。また囲碁にって気変わりもしたくない]
希新
[麗……あなたには悪いけど、これでいいのよ……これで……]
希新
[私はもう……囲碁を打つ気が、ないのだから]