宇沙子過去編に戻る
09
「その波は、宇沙子の日常も揺るがす」
田舎町。
都会ほどの大暴動は起こらないにしても、ゆっくりと削られてゆくブサイクたち。
その波は、宇沙子の日常も揺るがす。

碁会所。

カッカッカッカッカ……。
静かな碁会所。
時計の針がうるさく鳴り響く。

宇沙子
「こんにちは……」

老人
「……おや、宇沙子ちゃん」

宇沙子
「なんだか、ヒドイ事になりましたね……」
老人
「ああ、急に半数以上がもうココに来んようになったわ……」

宇沙子
「やっぱり最近できたあの法律のせいで……?」
老人
「ん? なんの事じゃ?」

宇沙子
「あれ……? 角田先生も……」
老人
「ああ、そうか……宇沙子ちゃんにも話すべきじゃな……」

老人
「角田先生は昨日……亡くなったよ」

宇沙子
「……え?」

宇沙子
「……まさか! ブサ狩り族の仕業!?」
老人
「いいや……。
今となっては、ブサイクの葬式すら許さておらん」

老人
「わしらは若い頃の写真を見せ、イケメンじゃったらセーフと言われた。
もちろん角田先生はイケメンじゃった……」

老人
「角田先生は癌じゃった……。
そう長くはないと言われとった。
なぁに、寿命をまっとうした、よい人生じゃっただろう……」

宇沙子
「そ、そうですか……」

老人
「他の者はわからん……。連絡すら来ない。もう出来ない。
ヒドい世の中じゃよ……」

宇沙子
「っ…………」

老人
「それでじゃ、日曜日に角田先生の葬儀があるんじゃ。
唯一出来る葬儀。他の亡くなった者と共に、見送ってあげたいと思っておる」

老人
「宇沙子ちゃんが来てくれれば、みんなや角田先生も嬉しかろう……」

宇沙子
「に、日曜日……?」
老人
「おや? なにか予定でもあったかのう?
無理にとは言わんよ……。こんな時じゃ」

宇沙子
(日曜日はあいつとの約束があった日……。
いいえ! あいつが勝手に決めたこと。約束なんか、はなからしてないわ……)

宇沙子
「い……いえ。なんでもないです。
私でよければ向かわせて頂きます」

宇沙子
(どう考えても、優先順位はこっち。
「葬式で行けなくなった」は行けない理由として、全(まっと)うな理由)

老人
「おお、それは良かった……!」

老人
「ずずっ……。すまん……。なんじゃろう、目頭がもう……。
わしはこの辺で先に、失礼させていただくよ……」
宇沙子
「あ、はい……」

宇沙子
「この状況ですし、私も家に戻ります」

パカッ
宇沙子携帯を取り出す。

宇沙子
(あいつに連絡しておかなきゃ……。勝手に待たれるのは好きじゃないし)

ピッ。

宇沙子
(あ。そっか……頑(かたく)なにメルアド交換を断ったんだっけ……)

宇沙子
(土曜日は学校が休みだし……仕方がないとしか言い様がないわね)

宇沙子
(って、なにあいつに気を使ってんのよ!
あ、あんな奴放置しておいたらいいのよ! まったく……)