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07
「七六八と大のお友達」
部室。
夕焼け。

七六八
「つくしさん……つくしさん……」
つくし
「ん……」

つくし
「ああ……七六八君か。私は少し眠っていた様だな……」
七六八
「はい」

七六八
「今、麗さんが大変なんです」
つくし
「大変?」

七六八
「はい……。「死んでやる」って言って出て行ってしまいました」
つくし
「……それは大変だな」

七六八
「慧さんたちが、麗さんを追っていきました。電話してとのことです」
つくし
「分かった、すぐ行こう。七六八君は坂野巻君を起こして来てくれ」

つくし
「いや……。この場を二人にするのは良くないだろうか?」
七六八
「いえ、大丈夫です。俊介さんにはお話があります」

七六八
「何もないですから、少し二人にさせてください」
つくし
「……分かった」

つくし
「済んだら、電話してくれ。早めにな」

たたたた……。
走っていくつくし

ゆっくりと俊介に寄る七六八。

七六八
「俊介さん……俊介さん……」
俊介
「…………っ!」

俊介
「はっ!? ……な、七六八か! あれ? みんなは?」
七六八
「皆さんは麗さんを追っています」

俊介
「う、麗を……!?」

俊介
「あっ……そうか、あいつ負けてしまったから……」
七六八
「はい」

七六八
「説明をしますと(ry」
俊介
「大丈夫、把握した。急ごう!」

七六八
「待って!
……座ったまま聞いてください」
俊介
「?」

七六八
「七六八は……凄く嬉しかったんです。
俊介さんが私に話しかけてくれたこと。
俊介さんが私と一緒に遊んでくれたこと。
俊介さんがアイスをおごってくれたこと。
凄く嬉しかったです」

七六八
「七六八は、人付き合いがあんまり上手くないみたいで
ずっと……ずっと一人でいました」

七六八
「そんな中、囲碁を打ってきました。
囲碁は二人でやるゲームでした。
ですが、打てば打つほど……
皆さんは私から去って行きました」

七六八
「唯一、そんな中でも私と囲碁を打ってくれた人がいました。
七六八のお父さんです。
七六八は、お父さんが大好きでした。
いつも優しくしてくれて、ずっとそばに居てくれた、
お父さんが大好きでした」

七六八
「そんなお父さんは……
七六八が小さい頃に亡くなってしまいました」
俊介
「……!」

七六八
「それから、七六八はまた一人になってしまいました。
いえ、厳密にはお母さんもいましたし、
カウンセラーの先生も見てくれました。
ですが、七六八には友達と言える同世代の友達がいませんでした」

七六八
「七六八は、楽しい事を知りたかったんです。
この世界……他にもっと楽しいことがあると思ったんです。
走って見てるうちは、凄くたのかったです。
でも夕暮れになると、なぜか少し寂しい気持ちになりました」

七六八
「でも、俊介さんが話をしてくれて、仲良くしてくれて、
見るものがまた楽しくなってきたんです。
1人より、2人で見る事は、こんなに楽しいことなんだなって、
七六八は凄く感じ取れたんです」

七六八
「俊介さんが友達になってくれて、
本当に嬉しかったんです……」
俊介
「七六八……?」

俊介
「な、何言ってんだ! 俺たちはこれからも友達だぞ?」
七六八
「いえ……、麗さんを怒らせてしまいました」

七六八
「七六八はどうやら、俊介さんと”大の友達”になってはいけなかったようです」
俊介
「……え?」

七六八
「七六八は俊介さんが好きです。
大好きです。大の友達として」

七六八
「でも、それももう終わらせなくてはなりません……」

すっ
俊介に顔を近づける七六八。

七六八
「ですから……それが終わる前に、
最後に……」
俊介
「……?」

七六八
「んっ……」

俊介
「…………っ!」

俊介
(俺は、ただ囲碁が強くなりたかっただけだった。
ただそれだけのために、七六八と近づいた。
七六八と仲良くしていた)

俊介
(なのに七六八は、そんな俺をずっと友達だと思って……
ずっと仲のいい、優しい友達だと思って……
大の友達として……
ずっと親切にしてくれてたんだ……。
俺が、七六八の囲碁の力にしか興味がない、そんな時でもだ)

俊介
(なんだよそれ……。
そんなのあんまりじゃないか。
俺は囲碁の事ばっかり考えてて、
そんな大事な事にも気づけなかったのか……?
七六八の気持ちに気づいてやれなかったのか?)

俊介
(俺は七六八の事、友達だと思ってなかったのか?
ただ、利用したかっただけなのか?
そんな……そんなつもりじゃなかったのに……)

俊介
(でも事実、そう思ってはいなかったんだ。
そんな当たり前なこと、今更気付くなんて、
俺は、最低だ……!)

俊介
(俺は…………。
俺は……!)

夕焼け。
窓ごしから紅い光が差し込む中。
部室に残る、七六八と俊介を照らす。

七六八
「ぱ……っ」

離れる二人。
口元から少し糸を引く。

俊介
「う……。
ぅ……七六八。俺……。
お前の事……気づいてやれなかった……」

俊介
「今更だなんて……そんな……
俺は……! 七六八に……なんて……ひどいことを……! うく……」

俊介
「すまない……本当に、申し訳ない……!」
七六八
「いえ、いいんです。
七六八から言い出した事ですから、元々七六八は怒ってはないです」

俊介
「ち……違うんだ……七六八……ちがうんだ……! 俺は……!」
七六八
「いえ、なにも違うくないです。
七六八もなんとなく分かってました」

七六八
「それでも本当に
七六八は嬉しかったですから……」
俊介
「…………っ」

七六八
「では、行きましょう」
俊介
「?」

スクッ
立ち上がる七六八

七六八
「俊介さん。
あなたが謝るべき相手は、他にいるんではないですか?」

俊介
「……っ!」